双極性障害で障害年金を申請するポイント
双極性障害は、躁状態とうつ状態のサイクルを繰り返す精神疾患です。別名「躁うつ病」とも呼ばれますが、うつ病の一種と誤解されることが多いものの、実際には異なる病気です。この記事では、双極性障害の症状や日常生活への影響を踏まえ、障害年金を申請する際に注意すべきポイントについて詳しくご紹介します。
双極性障害で初めて病院に行った日「初診日」とは
障害年金を申請する上で最も重要なのは「初診日」です。双極性障害の症状が現れて初めて受診した病院と、その日にちを正確に把握することが大切です。この初診日が障害年金申請の際の基準となるからです。
双極性障害の初期段階では、特にうつ状態が強い場合、初めての診断が「うつ病」や「不安神経症」であることもあります。それでも、その時点で双極性障害に関連する症状が現れていたのであれば、その病院に行った日が初診日として認定されます。
初診日を確認したら、次に確認すべきは以下の2つの要件です。
- 初診日の要件:初診日に国民年金か厚生年金の被保険者であること。
- 保険料納付要件:初診日の前日までに、一定期間以上の年金保険料が納付されていること。
具体的には、初診日の前々月までの保険料納付済期間と免除期間を合わせて、被保険者期間の3分の2以上であること、または初診日の前1年間に滞納期間がないことが求められます。
ただし、20歳前に初診日がある場合は、保険料納付要件は問われません。
これらの要件を満たした上で、双極性障害の症状が障害年金の基準に該当するかどうかを判断していきます。どんなに症状が重くても、初診日と保険料納付の要件を満たさなければ、障害年金は受給できない点には注意が必要です。
初診日とどの病院で治療を受けたかは、「受診状況等証明書」という書類で証明していくことになります。
双極性障害で障害年金が受給できる目安 ~「障害認定基準」
双極性障害の症状がどの程度であれば障害年金が受給できるかを示すのが「障害認定基準」です。この基準は、うつ病などの気分(感情)障害に基づいて判断されます。
- 1級の認定基準
気分や意欲・行動、思考に高度な障害があり、それが持続したり頻繁に繰り返され、常時援助が必要な場合が該当します。
- 2級の認定基準
気分や意欲・行動、思考に障害があり、それが持続したり頻繁に繰り返されることで、日常生活に著しい制限がある場合が該当します。
- 3級の認定基準
気分や意欲・行動、思考に障害があるものの、それが著しくなく、労働に制限が生じる場合が該当します。
初診日に国民年金に加入していた場合、1級または2級が対象となり、3級はありません。3級は初診日に厚生年金に加入していた方が対象となります。
双極性障害で障害年金が受給できるかどうかの判断基準
双極性障害は、症状が重い時期と軽い時期を繰り返すため、現時点での症状だけでは十分に判断できません。そのため、障害年金を申請する際は、症状の経過やそれが日常生活にどのように影響しているかを総合的に評価することが必要です。双極性障害に関連する主な判断基準を以下にまとめます。
1. 症状の経過を重視すること
双極性障害は、症状が顕著な時期(躁状態やうつ状態)と、症状が和らぐ時期(寛解状態)を繰り返す疾患です。そのため、現在の症状だけを見て判断することは不十分です。症状の変化や、それによって日常生活や活動がどのように影響を受けているかを十分に考慮する必要があります。
2. 併存する他の精神疾患との総合的な判断
双極性障害と他の精神疾患(例:統合失調症など)が併存している場合、各疾患を個別に評価する「併合認定(加重認定)」の取り扱いは行われません。これらの症状をすべて総合的に判断し、どのように生活に影響を与えているかを評価します。
3. 日常生活能力の判定
日常生活能力を評価する際には、以下の点を考慮します。
- 身体的機能や精神的機能の状態
- 社会的な適応能力の程度
特に、就労している場合でも、単に働けているからといって「日常生活能力が向上した」と判断されることはありません。労働状況や職場での支援、同僚との意思疎通の状況、仕事の種類や内容についても十分に確認され、そのうえで日常生活能力が評価されます。
4. 神経症と人格障害に関する注意点
- 人格障害については、原則として障害年金の認定対象とはなりません。
- 神経症は、長期間にわたって症状が持続し、表面的には重症であっても、原則として障害年金の対象にはなりません。しかし、症状が精神病の病態を示している場合は、統合失調症や気分(感情)障害と同様に扱われます。この判断は、国際的な診断基準である「ICD-10」に基づいて行われます。
5. 例外的に障害年金が受給できるケース
神経症や人格障害は原則として障害年金の対象外とされていますが、例外的に受給できるケースもあります。たとえば、神経症でも精神病に近い症状が見られる場合や、人格障害でも重度の障害が日常生活に大きな影響を与えている場合などです。これらのケースは一概に決められないため、具体的な判断については専門の社労士に相談することをお勧めします。
以上の基準に基づき、双極性障害で障害年金を受給できるかどうかを判断していきます。
双極性障害で障害年金を受給するのは難しい?
双極性障害は、躁状態とうつ状態が交互に現れるため、それぞれの時期によって症状や日常生活への支障が大きく異なります。そのため、障害年金の申請においては、躁状態とうつ状態それぞれの症状や生活の支障をしっかりと書面に表す必要があります。これが難しい点でもありますが、正確な情報を提供することで、適切な支援を受けるための基礎となります。
躁状態の特徴と影響
躁状態では、陽気で明るく、やる気に満ち溢れているように見えることが多いため、一見症状が改善しているように捉えられがちです。しかし、実際には双極性障害の当事者にとって、躁状態は非常に苦しいものです。高揚感が抑えられず、自分自身で制御が効かないため、精神的に追い込まれることがあります。
躁状態の時に生じる具体的な困りごとには以下のようなものがあります。
- 気分が高揚し、大げさな言動や過激な行動を取る
他人に迷惑をかけてしまうことが多く、後で後悔することもあります。
- 怒りっぽくなり、他人とのトラブルが増える
衝動的にカッとなり、時には暴力沙汰や口論に発展することもあります。
- 一晩中寝ないで活動する
睡眠不足が続くことで、体力的にも消耗してしまう場合があります。
- 衝動的な行動
自分の収入を超える高額な買い物を衝動的にしてしまい、後に支払いに困ることがあります。
- 人間関係のトラブルが絶えない
他人とのトラブルが増え、社会的な孤立に繋がることがあります。
- ギャンブル依存や異性関係の問題
ギャンブルや異性との交遊が派手になり、経済的・社会的問題を引き起こすことがあります。
このような状態は、当事者にとって日常生活だけでなく仕事にも大きな支障を及ぼし、周囲の人々も巻き込んでしまうことがあります。しかし、躁状態にある本人は自分の行動をコントロールできず、自己嫌悪に陥ることが多いです。その結果、さらに精神的な苦しみが増し、悪循環に陥ることがあります。
うつ状態の特徴と影響
一方、うつ状態に入ると、今度は抑うつ感や絶望感によって、日常の活動が全くできなくなることが多くなります。この躁とうつの大きな波にさらされ、当事者は肉体的にも精神的にも疲弊してしまいます。
躁状態とうつ状態を整理して申請書に反映させることが重要
双極性障害の方の場合、うつ病の方とは異なり、躁状態の時にも多くの困難があります。躁状態の時の支障とうつ状態の時の支障は異なるため、その両方を診断書や病歴・就労状況等申立書に正確に記載することが非常に重要です。
例えば、躁状態では高揚感や衝動的な行動が目立つのに対し、うつ状態では活動の意欲が低下し、日常生活に大きな支障をきたします。この両方の状態を適切に記録し、提出することで、双極性障害の実態がより正確に伝わるでしょう。
働きながら双極性障害で障害年金を申請する場合
双極性障害の治療をしながら働いている方も多くいます。たとえば、障害者雇用枠でフルタイム就労をしている方や、パートタイムで働いている方もいらっしゃいます。重要なのは、「働いているから障害年金が受給できない」というわけではないということです。
実際には、働いているという事実だけで障害年金が支給されないケースや、認定等級が不利に評価されることが多いのが現状です。「働けている=症状が軽い」と判断されがちですが、双極性障害の特性を考えると、これは誤った見方です。
たとえば、躁状態の時には明るく仕事ができていても、うつ状態になると欠勤が増えたり、職場でトラブルが発生する場合もあります。このように、仕事には支障が出ていることが多いのです。したがって、職場での配慮や実際に感じている困難を診断書や申立書に反映させることが、適切な認定を受けるために重要です。
最後に
双極性障害で障害年金を申請する際には、うつ状態の症状だけでなく、躁状態の症状や日常生活での支障も正確に診断書や申立書に反映させることが不可欠です。躁状態の時の支障として、ギャンブルや浪費、暴力問題などがある場合、それをしっかりと訴えることが重要です。双極性障害は、その波の大きさに当事者も非常に苦しんでいるため、両方の側面をきちんと書き出すことが求められます。
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